『江口寿史のなんとかなるでショ!』とは? 80年代ポップが生んだ実験的短編集
イラストレーターとしても名高い江口寿史が、漫画家として最も精力的だった1980年代後半に発表した短編オムニバス作品です。全1巻というコンパクトな構成の中に、不条理な笑いと洗練されたアートワークが凝縮されています。
後に江口作品を彩ることになる名物キャラクターたちの原点でもあり、単なるギャグ漫画の枠を超え、当時のサブカルチャーシーンに鮮烈なインパクトを与えた一冊として知られています。「江口寿史のショー三部作」の一つにも数えられ、その実験的な作風は今なお新鮮さを失っていません。
あらすじ:不条理ギャグと切ない都市伝説
舞台は、バブル景気前夜のエネルギーに満ちた1980年代後半の日本。1話完結のオムニバス形式で描かれるのは、当時の漫画の常識を軽々と飛び越える実験的なストーリーの数々です。メタフィクションやパロディを駆使したナンセンスな世界観の中で、読者は予測不能な「江口ワールド」に引きずり込まれます。
特に印象的なのは、作品全体を貫く「振り幅」の大きさです。「そッれッだッけッなッらッばッ、まッだッイイがッ!」という独特なフレーズで迫りくるオカマのトーマス兄弟や、根暗な少年うしみつくんといった強烈なキャラクターが暴れ回る爆笑ギャグ回がある一方で、収録作「彼女は毎朝、東西線で」では空気が一変します。通学電車で見かける少女への淡い恋心を描いたこの短編は、どこか都市伝説のような不穏さと、胸を締め付けるような切なさを孕んでおり、単なるギャグ短編集だと思って読み進める読者に鮮烈な印象を残します。
本作が評価され続ける3つの理由
【1. ギャグとシリアスの絶妙な落差】 下ネタやナンセンスの極致で腹を抱えて笑わせた直後に、文学的とも評されるシリアスな怪談めいた短編が配置されています。このジェットコースターのような感情の揺さぶりこそが本作の真骨頂であり、読後の余韻を深く刻み込む要因となっています。
【2. 江口ワールドの住人たち】 本作には、その後の江口寿史作品の「顔」となっていく名物キャラクターたちが数多く登場します。特にトーマス兄弟やうしみつくんのデビュー戦を目撃できる点は、ファンにとって資料的な価値も高いと言えるでしょう。彼らの強烈な個性は、初登場時から完成されています。
【3. 色褪せないポップ・アート】 80年代に描かれた作品でありながら、その画面構成やキャラクターデザインは古びるどころか、むしろ現代的です。江口寿史特有の、シンプルでありながら洗練された人物描写や、グラフィックデザインを取り入れたようなコマ割りは、今の読者の目にも極めてオシャレでポップに映ります。
江口寿史のイラストが好きなら必読!こんな人におすすめ
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江口寿史の「絵」は知っているが「漫画」は未読の人 現在はイラストレーターとしての活動が有名な著者ですが、本作を読めば彼が「ギャグ漫画の革新者」と呼ばれる理由が分かります。卓越した画力とキレのある笑いのセンスが融合した、入門書として最適な一冊です。
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80年代サブカルチャーやレトロポップな雰囲気が好きな人 作中に漂う空気感は、まさに80年代そのもの。当時のファッションや風俗、そして独特の「軽さ」と「毒」がパッケージされており、レトロモダンな世界観を愛する層にはたまらない魅力が詰まっています。
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短時間で「一生忘れられない読書体験」をしたい人 全1巻完結のため、サクッと読み切ることができます。しかし、その読書体験の密度は長編映画にも劣りません。笑って、驚いて、最後には少し切なくなる。そんな濃密な時間を手軽に味わいたい方におすすめです。現在は主要な電子書籍ストアの中でKindleなど限定的な配信となっているため、見つけた時が読み時です。